上田へはじめて行き、五日ほど滞在したときに〔刀屋(かたなや)〕の蕎麦を、これもはじめて口にした。
東京では口にすることができぬ、本物の手打ちだ。
(略)
並のもりそばでも、東京の三倍はある。
大盛りとなれば、とても私ひとりでは食べきれない。
昼時は、客があふれんばかりに詰めかけて来るので、私はいつも、午後の空いた時間を選ぶことにしている。
(略)
この店の名を〔刀屋〕というのは、封建のころ、刀の鍔(つば)をつくる鍛冶職だったからである。
いかにも、城下町の蕎麦屋らしいではないか。
池波正太郎「散歩のとき何か食べたくなって」(新潮文庫)より
こんな文章を読めば、上田市にやってきて「刀屋」を外すことはできません。どんなガイドブックにも勝ります。21日の昼飯です。
「もりそば」です。「並」でこの盛りです。隣のテーブルの「大」は、文字通り山を築いていました。
もうひとつは、人気の「真田そば」です。出汁が味噌仕立てです。
器に味噌となめこが入って出てきます。ここの別器の鰹のだし汁を入れます。好みでそば出汁も入れて混ぜると、冷や汁(みそ汁)のようです。これでそばを食べます。
そのそばですが-
あまり光沢はなく、ちょっとねっとりとした、悪く言えば団子のような感じです。スルスルと喉を流れるというわけではありません。しっかりと咀嚼(そしゃく)していきます。食べても、食べてもそばです。もちろん、きれいにいただきましたが、期待していただけに、ちょっと…という味でした。関東人とは、味覚の構造が違うのでしょうか。
量もさることながら、価格にもびっくりします。もりの並(優に2人分)で650円です。
メニューは多いですが、もり、ざる、真田の他を食べている人は見あたりませんでした。