ちょっとすまなさそうではありました。でも、わたしの胸にはグサリと刺さる予想もしなかった言葉が返ってきました。
左足が痛くて歩けませんでした。2連泊したサリアの2晩目は、旧市街の巡礼路沿いにあるオステルでした。2階にあるわたしの部屋の窓の下は、隣のバルの中庭になっていました。パラソルにテーブル、椅子が並んで、心地よさそうなスペースでした。
すでに夜の10時を回っていました。それなのにギターをかき鳴らす音。ドラムスがリズムを刻み、あげくはバグ・パイプと同じあの楽器がプーカブースカと、とてつもなく息の長い音を果てしもなく垂れ流し続けていました。
灯りを消した窓から騒音の源に向かって、「シー」と声を発しました。でも無視されてしまいした。歌声は最高潮に、拍手は鳴りやまみそうにありませんでした。
とても寝ておれる状況ではありませんでした。わたしは痛い足をひきずって、泊まっているオステルの管理人でもあるバルのマスターに苦情を言いに行きました。
「いくらなんでもひどいじゃないの。こんな時間に。寝てられないじゃないの」
不自由な英語ですが、可能な限りの怒りを込めて言い放ちました。そのとき返ってきたことばです。
「This is Spain!」
なるほど、とそのことばにヘンに納得させられました。スペインでは夜の10時は、まだ宵の口ということなのでしょう。ヨーロッパ標準時を採用する国では西の端にあり、おまけに夏時間でした。朝日が昇るのが午前8時台、沈むのも午後8時台というのが1日でした。
それはわかるとしても、ここはカミーノ沿いのアルベルゲやオステルが並ぶ場所ではないですか。ペルグリーノはみんな朝が早いのでした。オステルの管理人だったら、それくらいわかってくれても当然ではないでしょうか。わたしが身勝手だったのでしょうか。腹立ちの対象は、騒音を発している若者たちだけではなく、それを静止しようとしない管理人にも向いてしまいました。
「なんとかしくれよ!」
わたしは精一杯の啖呵を切って、バルを後にしました。管理人は、外まで追ってきました。すまなさそうに、「これを使ってくれ」とスポンジでできたイヤーキャップ(耳栓)を差し出しました。
「I’m not Spanish!!」
腹立ちまぎれに、そんなことばを思い浮かべました。