悪いことは続くものです。朝、6時になってもだれも起きてきませでした。まだ暗いアルベルゲを、独りで出発しましたが、ウォーキング・ポールを忘れていました。自動ロックの玄関からいったん出てしまうと、後戻りはできませんでした。実は前回の巡礼でも、同じことをやっています。やがて起きてきた英国人のおばちゃんに合図して開けてもらいました。後で気づきましたが、電源の変換プラグ(スペインはC型)も忘れていました。注意力が散漫になっていたようです。
巡礼路は霧雨に煙っていました。このカミーノで初めてのお湿りでした。それも気分を暗くしました。
メリデで待望のプルポを食べ、白ワインのコップ酒で気を取り直して歩きました。
ところが、リバディッソの私営アルベルゲで再び突き落とされました。管理人のホスピタレイノ(男性はホスピタレイロ)が、とにかくにぎやかでした。大きな声でずっと話していました。
そういえば前回の巡礼の帰り道、サンティアゴ・デ・コンポステーラから乗ったrenfe(スペイン国鉄)で、通路の向こうに座った男性が、マドリードに着くまで途切れることなく隣の女性に話しかけていました。何を話しているかはわかりませんでしたが、何をそんなに話すことがあったのでしょうか。
ホスピタレイノのあまりのうるささに、静かな午後のシエスタ(昼寝)もままなりません。裏庭の木陰に逃げ出して日記を書いたりして過ごしました。
夜になっても相変わらずのボリュームでした。1階に泊まっている団体客とおぼしき一団とのロビーでのにぎやかな話し声が、吹き抜けの2階寝室まで響き渡りました。たまりかねて「シー」と言いに行った同宿者もいました。でも効果はゼロ。「お・も・て・な・し」という概念は存在しないのかと疑いました。
よほど興奮していたのかもしれません。その夜は、悪い夢を見ました。悪魔の一撃をかわそうとした瞬間、ベッドから転げ落ちました。下段でよかったです。こんな体験、小学生の時に疑似チフスの疑いで隔離入院した病院のベッドか落ちたとき以来でした。
サリアで出会った地方国立大の学長夫人の優しいことばが蘇ってきました。「涅槃の道を楽しんできてくださいね」
ああ、まだまだ修行が足りませんでした。