モーツァルトが死の床で書き続け、未完のまま残された「レクイエムニ短調」(死者のためのミサ曲)が、モーツァルトが亡くなった同じ日の同じ時間にシュテファン大聖堂に流れました。指揮はピアニストで指揮者も目指している反田恭平です。
これは聴きに行くしかない!! と決断した5回目のウィーンへの旅でした。感動の夜でした。
哀しくも美しいメロディーが、広い大聖堂のドームに吸い込まれました。
学生時代にカール・ベーム指揮、ウィーン・フィルの演奏するLPを買って、何度も何度も聴きました。奥さまは学生時代に歌っています。それから50年余。遂にリアル・レクイエムと出会うことができました。
午前零時を前に、シュテファン大聖堂の前は静まりかえっていました。
大にぎわいだったクリスマスマーケットにも人影はありません。
大聖堂の重たい扉から入ります。
チケットは、インターネットで日本から予約していました。前方の席は取れず、着席すると反田クンもオケや合唱もほとんど見えませんでした。満席でした。
反田くんの指揮者としての海外デビューでした。渾身の指揮でした。
演奏を前に、反田くんがカメラを前に話していました。
演奏が終わると照明が消えました。レクイエムですから拍手はありません。聖職者を先頭に反田くん、オーケストラ団員、合唱団員が一列に並んで退出しました。プロセッションです。チーン、チーンと最後のひとりが去るまで暗闇に厳かな鐘がなり響きました。モーツァルトの葬儀でも使われた同じ鐘だそうです。
午前1時をまわって大聖堂を後にすると、ケルントナー通りのイルミネーションも消えています。歩いているのは大聖堂を出て家路を急ぐ人たちだけです。
わたしたちのホテルは、次の角を曲がって30メートルほどのところでした。